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2011年度春季 長崎外国語大学入学式 式辞 2011年4月6日 |
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長崎外国語大学に入学された皆さん、おめでとうございます。長崎外国語大学の全教職員を代表して心から歓迎の意を表します。また、ご家族をはじめ関係の方々にも、合わせて心よりお祝い申し上げます。 今回の学部の1年次入学者は、155名です。そのうち、45名が留学生です。社会人入試で入学された6名の方もいらっしゃいます。これとは別に、2年次・3年次の編入学・転入学が15名、昨年秋の入学と合わせると60名になります。また本学にはJASINプログラム、NICSプログラムと呼ばれる外国人留学生のための短期留学制度があり、このプログラムの留学生22名も本日の入学式に臨んでいます。昨年秋から継続して学んでいる学生もいますので、短期留学生は73名となります。 皆さんは、この入学式がキリスト教の礼拝のスタイルで行われていることにお気づきのことと思います。皆さんが手にしている入学式のプログラムの表紙をご覧ください。そこにはラテン語でvia veritas vita(わたしは道であり、真理であり、命である)と記されています。この「道」、「真理」、「命」は、先ほどの宗教主任の聖書朗読にありましたように、「ヨハネによる福音書」に書かれているもので、イエス・キリストが自らを明かして述べた言葉です。表紙の一番上に記されている校章は、この言葉の三つの頭文字、すなわちv を三つ組み合わせたもので、キリスト教精神に基づく長崎学院・長崎外国語大学の建学の精神を象徴しています。長崎学院・長崎外国語大学は、キリスト教精神、つまり「真理と自由の探求」、「隣人愛」、「献身と奉仕の精神」を教育の根本理念としているのです。 さて、長崎学院は、今年、創設65年周年を迎えます。長崎学院は、第二次世界大戦が終結した年、1945(昭和20)年に、長崎市民のための外国語学校として始まりました。皆さんもご存じのように、長崎は、原爆によって壊滅的な被害を受けました。その焦土と化した長崎で、戦争に対する深い反省とキリスト教的な人間愛の精神に基づいて、日本の再建のためには、そしてまた世界の平和と人類の共存共栄のためには、外国語を学び世界的な視野と教養を身につけた若者を育てることこそ急務であるとの精神から創立されたのです。諸外国の言葉を学び、その背景にある各民族の豊かな歴史、文化、生活を知る。そうしてはじめて真の理解と友情が生まれる。創立者たちはそう考えたのです。この建学の理念は65年を経て、今なおまったく色褪せていません。私は学長として、そのような大学でいま諸君を迎え、諸君とともに学び得ることを誇らしく思います。 長崎外国語大学は、長崎外国語短期大学の長い歴史と伝統を継承して、21世紀の最初の年、2001年に設置されました。今年ちょうど開学10周年を迎えますので、長崎学院創設65年周年と合わせて、12月に記念式典を催すことにしております。これまで大学は、7回の卒業生を世に送り出しました。卒業生たちの活躍はめざましく、10年の歳月を経て、ようやく長崎外国語大学の名が世に広まり、基礎が固まり、本学はいま次の10年に向けて大きく飛躍しようとしています。新入生の皆さんには、長崎外国語大学のもっとも若々しい力として、しっかり学び、活躍されることを期待しています。 最近、若者の「内向き志向」がしばしば話題になり、若い世代で海外に対する関心が低下しているといわれます。統計を見ますと、2001年にアメリカに留学した日本人学生の数は46,000人でしたが、以降毎年減少が続き、2009年には24,000人と、約半数まで落ち込んでいます。一方、中国や韓国などのアジア諸国の若者は、留学や国外での就職にも意欲的であり、積極的に海外に飛び出して行こうという勢いが見られます。2009年アメリカの留学生数の上位は、東アジアで占められています。1位中国、2位インド、3位韓国、以下カナダ、台湾と続き、日本は、6位です。幸い、長崎外国語大学では学生の約三分の一が在学中に留学を経験しています。卒業生のなかには、貿易会社、旅行会社、メーカーなどで、外国語を生かして仕事をしている人もたくさんいますし、ニューヨークやパリや上海で仕事をしている人もいます。 長崎外国語大学は、このようなグローバル人材の育成に今まで以上に果敢に取り組んでいきます。グローバル人材というのは、「激動する国際社会の中で政治・経済・文化などの諸領域においてグローバルな課題に対して問題意識を持ち、社会において主体的に行動できる人材」を指します。 では、なぜ今、グローバル人材の育成が重要なのでしょうか。一つの例として、日本、韓国、中国、台湾など東アジア地域の状況を考えてみましょう。日本、とりわけ長崎と東アジア地域とは、学術、文化の面で長い交流の歴史をもっています。最近は、特に経済の分野で、国境を越えた活動が展開されており、日本の貿易相手国のシェアにおいてアジアが約5割を占めるなど、日本経済の東アジア地域との一体化が進展しています。このことを背景として、日本でも外国人を採用する企業が増えており、国籍にとらわれない人材の登用が今後、進展いくものと思われます。 これらの急速な進展により、東アジア地域全体で他国へ留学する学生が増え、学生の国籍がそれほど大きな意味を持たなくなる日も近いと思われます。その結果、国際的に通用する専門知識とグローバルなコミュニケーション力を兼ね備えた人材の育成が求められているのです。グローバル人材としては、語学だけができるだけでは、不十分であり、海外で起こっているさまざまな出来事に対して広く関心を持つと同時に、日本や日本人の置かれている立場を相対的に捉える事ができるような「国際感覚」を身につけることが大切です。そのうえで、積極的に海外に出てゆき、その経験を生かして日本国内外でそれぞれの分野で活動することができる、長崎外国語大学は、そのような「グローバル人材」の育成にチャレンジしているのです。 それでは、長崎外国語大学は、「グローバル人材」育成のためにどのような取組をしているのでしょうか。言い換えれば、諸君はこの長崎外国語大学で、何をどのように学ぶのでしょうか。見通しをもって4年間の勉強を始めていただくために、いくつかの要点を押さえておきたいと思います。 ここに、絵柄が織り込まれている1枚の布があります。この布は、縦糸と横糸で織り上げられているのですが、先ほど申し上げました「専門知識」が縦糸にあたります。横糸は何かといいますと、「語学力」、「コミュニケーション力」、「人間力」の3つです。 まず縦糸、つまり専門知識を学ぶ際に重要となる二つのことについてお話します。 第一は、大学の授業受ける中で、「英語の音声」や「アフリカの食糧問題」でも「韓国の民族性」、あるいは「ケルトの妖精」や「野球の歴史」であってもいいのですが、自ら関心や興味のあるテーマを発見し、その一つのことを深く徹底的に勉強してほしい、常に知的好奇心を持ち、未知の世界に飛び込んでいただきたいのです。 しかし、「一つのテーマを深く、徹底的に勉強する」場合に、そこには大きな問題があります。「アメリカの首都はワシントンD.C.である。」とか「津波は、英語でも、フランス語でも、ドイツ語でもTSUNAMIという。」というような知識を命題知といいます。インターネットなどの情報技術の飛躍的な進歩によって、私たちの目の前には、このような膨大な知識と情報が大海原のように広がっています。このような無数の断片的な情報を蓄積しても、それはゴミの山になってしまいます。 ですから、第二のポイントになりますが、本当の意味で知識を獲得するためには、自分のテーマにそって必要な情報を組み合わせたり、知識と他の知識や情報との関連付けを行ったりして、皆さんの興味や関心の方向によって、全体を組み立てていくことが重要です。ジグソーパズルで遊んでいるときのことを思い起こしてください。ジグソーパズルでは、一つ一つのピースの形をよく観察し、比較し、つなぎ合わせてみる。10ピースくらい組み合わせると、建物や動物の形が姿を現してくる。全体は動物園の絵になるのかな?と、常に全体を想像しながら、そういうピースの塊をいくつか作って、組み合わせることによって、ジグソーパズル全体の絵が完成するのです。 もう一つの知識の取り込み方ですが、少子高齢化社会、外国人労働者の受け入れ、エネルギーや環境保全など、自分のテーマと関連する、解決すべき現実の問題、具体的な課題を軸として、知識を取りまとめるという方法です。これらの課題に立ち向かう強い情熱があれば、バラバラだった知識が、一つにつながり、問題解決のための新たな知恵が出てくるということになります。 現代英語学科では「国際ビジネス」、「観光ホスピタリティ」「通訳翻訳」「英語専門職」「異文化理解」の5つの領域で専門知識を学び、国際コミュニケーション学科では「ヨーロッパ研究」「アジア研究」「日本研究」「比較社会文化研究」の4つの領域で専門知識を学びます。「国際ビジネス」で学んだ知識と「アジア研究」で学んだ知識を、自分の頭の中でどのように関係づけるのか、それぞれの分野で学ぶ知識の断片は、皆さんの関心やテーマを軸に、比べたり、組み合わせたりしながら、体系的に整理しておくという点が肝心です。 今、縦糸としての専門知識について話をしましたが、次は横糸です。 長崎外国語大学は、学生諸君に「語学力」と「コミュニケーション力」と「人間力」、この3つの力をしっかり身につけていただくことを教育の目標としています。この「語学力」「コミュニケーション力」「人間力」が横糸にあたります。 まず、「語学力」をしっかり身につける、外国語大学で学ぶ皆さんにとっては当然のことです。喩えて言えば、グローバル人材という丈夫な布地を織りあげるには、一重の横糸では弱い。二重の横糸が必要です。つまり、一つの外国語では、不十分であり、少なくとも二つの外国語に習熟するということが大切です。今日、英語は、世界のあらゆる場面で使われています。ビジネスの場面では英語で十分仕事がこなせるようになってきています。しかし、英語でビジネスを処理できたとしても、継続してビジネス活動を行っていくためには、その国の人の心のひだに触れる真のコミュニケーション力が必要です。そのためには、その土地の文化を深く理解するとともに、その人々の言語でコミュニケーションを図ることが一番です。長崎外国語大学のキャンパスでいろいろの国から来た留学生と出会い、少なくとも2つの外国語が必要だという「感覚」をなるべく早く、実際につかんでください。 語学力以上に重要な力は「コミュニケーション力」と「人間力」です。語学力は、それが人と人とのコミュニケーションに生かされるのでなければ、何の意味もありません。相手の言葉によく耳を傾け、正しく理解したうえで、それに対する自分の意見を明確に相手に表現し、伝える。場合によっては、様々な説明の方法や手段を駆使して、意見の異なる相手との相互理解を得る、これこそ重要なのです。 しかし、何よりも重要な横糸は「人間力」です。自らの頭で考え、自ら問題を発見し、自らそれを解決する力、自ら計画し、行動し、実践する力です。同時に他の人間の立場を思いやり、他の人間と協調し、協力して、何事かを実現する力、これをコラボレーションとかチームワークといいますが、このコラボできる力によって、人間力はまさに人間力として力を発揮するのです。このような人間としての総合的な力が強力な横糸となって、グローバル人材という布が織りあがるのです。 縦糸としての専門知識、横糸としての語学力、コミュニケーション、人間力--この縦、横の糸をしっかり組み合わせて学んでいくことがポイントでした。 そろそろまとめに入りましょう。 皆さんは、それぞれ関心のあるテーマを持ち、最終的にはその個性が一つ一つの異なるユニークな絵柄となって布地が織りあがっていくのですが、思い通りに丈夫な布ができているのか、途中の段階で点検してみることも必要になります。細い糸があれば太くし、ほつれがあれば、すこし糸をほどいて織り直す必要があります。グローバル人材として通用するかどうか、実際、試しに使ってみて、弱いところがあれば補強しなければなりません。 そのような機会を皆さんに与えるために、長崎外国語大学は「世界がキャンパス」、「キャンパスが世界」というモットーを掲げて、学生に国際交流の機会を作っています。「世界がキャンパス」、これは、できるだけ多くの学生諸君が世界各国の大学に留学し、語学力のブラッシュアップに加えて、留学経験を通して「国際感覚」、コミュニケーション力、人間力を身につけ、、グローバル人材として成長していただくことを狙いとしています。そのために本学では世界中の60に近い大学と交流協定を結び、これまでにも多数の学生を世界中の大学キャンパスに送り出してきました。留学制度の充実と実績は本学のような小規模の大学としては他に類がないものです。 それでは「キャンパスが世界」とはどういう意味でしょう。実はわが大学では、日本人の学生を海外に送り出すだけでなく、逆に海外から多くの留学生を受け入れることにも力を注いでいます。本日入学する新入生は、留学生の出身国ないしは出身地域は、中国、台湾、韓国、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツと多岐にわたります。つまり皆さんは、仮に外国に留学しなくとも、本学のキャンパスにいながらにして、多くの外国人学生と交わることができるのです。すなわち「キャンパスが世界」なのです。 皆さんは、それぞれの個性を生かしながら、専門知識と人間力を縦横に駆使して、4年後にどのような布地を織りあげますか。楽しみですね。 最後に、東日本大震災と今なお復旧の見通しが立っていない福島第一原子力発電所について、一言、私の個人的な思いを述べさせていただきたいと思います。今回の大震災で被災され、困難な避難生活を余儀なくされている多数の方々に心よりお見舞いを申し上げるとともに、お亡くなりなった方々に哀悼の意を表したいと思います。 被災地の様子が連日ニュースで報道されていますが、がれきの山をかき分け、腰まで水につかりながらご家族を捜されているご老人や、ボランティアとして避難所の人々のために安否情報の掲示を担当する仕事を淡々とこなしている両親を失った小学生の少女の姿を見るにつけ、涙を禁じ得ません。中国のテレビでは、工場で働いていた拾数名の中国人の若い女性を真っ先に高台に避難させ、自らは津波にさらわれて亡くなった会社の専務さんを讃える報道が流され、インターネットのブログでも同様の書き込みが増えています。隣国の人々の温かい気持ちがわかります。東日本大震災と福島原発は、私たちの心を揺さぶる根源的な問いを投げかけているという思いに駆られるのです。家族とはなにか、ふるさととは何か、人との絆(きずな)とはなにか?私たちにとって大切なものとはなにか。私たちは、今何をなすべきなのか。 長崎外国語大学が開設された、ちょうど10年前の2001年に同じ衝撃を受けたことを思いだします。いわゆる9.11と呼ばれるようになったアメリカ同時多発テロ事件です。私は、翌年の夏、長崎外国語大学第1期生の学生たちと一緒にニューヨークの、2機の航空機が突っ込み、廃墟と化した世界貿易センタービルの跡地を訪れました。アメリカのことを勉強している学生たちに、現場位に立った時の思いをアクチュアルな体験として心に刻み込み、この事件の意味をしっかり受け止めてほしかったからです。私の専門はアメリカ文学ですが、9.11の事件以来、アメリカとは何だろう、アメリカ人とはなんだろう、この問いかけなしには、私の授業は成り立たなくなりました。また、この事件は、私の関心がアジアへと向かう大きな契機となりました。 東日本大震災からの復興と福島原発の問題は、今、私たちに重大な課題を投げかけています。枯渇しつつある化石燃料と原子力に依存し、大量生産、大量消費を続ける経済大国、日本、そこに暮らす私たちの未来にどのようなビジョンを描けばよいのか、この問に答え、日本、いや世界全体の将来を切り開く責務が皆さん一人ひとりに課せられていると思うのです。 私もこの4月に新学長に就任したばかりです。新入生の皆さん、被災された皆さんのためにも、一日も早い日本の復興を願って激励のメッセージを送ってくださる世界中の人たちのためにも、共に同じ1年生として努力を惜しまず、学び続け、新しい未来を切り開きましょう。 入学おめでとう。
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