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学長スピーチ 2010年度春季 長崎外国語大学・長崎外国語短期大学卒業式 式辞(2011年3月18日)

2010年度春季 長崎外国語大学・長崎外国語短期大学卒業式 式辞

2011年3月18日
学長 池田紘一

長崎外国語大学・長崎外国語短期大学の卒業生諸君、卒業おめでとう。中国、台湾、韓国からの留学生31名を含む102名、そのすべての卒業生に対し、大学を代表して、またご列席のご来賓の方々と共に、心から祝福の意を表します。諸君が無事この日を迎えることできたのは、むろん諸君の精進の賜物ですが、しかし申すまでもなく、それを今日の日まで、精神的に、また経済的に支えてこられた保護者やご家族の温かい愛情と支援の賜物でもあります。その保護者やご家族の方々に対しましても、合わせて心よりお慶び申し上げます。

今年の卒業式を、私は学長として、いろいろな意味で、特別の思いをもって迎えました。

まず第一に、学校法人長崎学院は、ご承知のように、第二次世界大戦終結直後の1945年12月、原爆による荒廃の中で、日本の復興と世界の平和と繁栄とに貢献できる若者を育てることを目的に創設されました。それから65年、今年度は創立65周年に当たります。また、わが長崎外国語大学は21世紀の初めの年、2001年4月に開かれましたが、それから10年、今年度は開学10周年に当たります。つまり諸君は、長崎学院創立65周年、長崎外国語大学開学10周年、この記念すべき年の卒業生なのです。

第二に、この卒業式において、長崎外国語短期大学の最後の卒業生を送り出し、来る3月末をもって、短期大学は61年の長い歴史を閉じます。上室早希さんの卒業証書番号は11602です。これはつまり、わが短期大学は実に11602名もの卒業生を輩出したということを意味します。戦後日本の復興において短期大学が果たした歴史的な役割、そしてわが長崎外国語短期大学卒業生の多方面における活躍、これについては改めて申し上げる必要はないでしょう。長崎外国語大学が開学10を迎え、いま諸君が第7期生として卒業を迎えることができたのは、短期大学のこの歴史と伝統の礎があったればこそであるということを、短期大学最後の卒業式に際して、諸君と共にしっかり心に刻みたいと思います。

私が特別の思いをもってこの卒業式を迎えたという、その第三の思いは、本日「名誉卒業証書・学位記」を授与された、いまは亡き小西祐生さんのことです。小西さんはフランス語・フランス文化コースの学生として優秀な成績をおさめ、明るく誰にも慕われる、素晴らしい人柄の、前途有望な学生でしたが、4年生の秋学期に、まことに思いがけなくも病のために急逝されました。諸君もまた小西さんがこの場にいないことを、きっと寂しく思っていることでしょう。
実は私個人にも小西さんは、あることで忘れがたい人です。4年前の、新入生オリエンテーションのための雲仙一泊研修旅行のことは諸君もよく覚えているでしょう。湯煙の立つ温泉地獄の散策の折、私は数人の学生と談笑しながら歩いていました。話題が漫画のことになり、かねて読まず嫌いで漫画に偏見を持っていた私は、あんなもののどこがおもしろいのかと申しました。もちろんみなは漫画を弁護していろいろなことを言いました。数日後、大学の学生係を通じて学長室に漫画がどっさりとどけられ、これを読んでくださいという手紙が添えられていました。それは「スラムダンク」というマンガで、実はこれを届けた学生が小西さんだったのです。私は、なるほどおもしろいと思い、マンガに蒙を開かれたのです。小西さんはそういう学生でした。
実は過日、お父上から、小西さんが生前大好きであった薄紅色のハナミズキの木を大学に寄贈させてはもらえないかとのお申し出がありました。まったくの偶然ですが、今年卒業生諸君から贈られる記念樹もそれ以前にすでにハナミズキと決まっていました。その記念樹は数日前に大学の庭園に植樹されましたが、この記念樹の傍らに、小西祐生さんの名を刻んだ石碑とともに同じ花水木が植えられています。ここに諸君と共に、改めて小西さんのご冥福を祈りたいと思います。

さて、特別の思いのもう一つは、申すまでもなく東日本大震災、東北・関東大震災のことです。大津波によって多くの町や村が跡形もなく消え去り、多数の犠牲者を出しました。この卒業式を迎えるちょうど一週間前のことで、いまもなお夥しい数の行方不明者があり、30万人にも及ぶ方々が避難生活を強いられ、救援活動と復興への模索もまだ緒についたばかりです。この卒業式にあたり、諸君と共に犠牲者のご冥福をお祈りするとともに、一日も早く復旧の目処が立つよう祈りましょう。
テレビに映し出された映像は戦災や原爆で焼け跡と化した町の光景を思わせるものがあり、形容する言葉もありませんが、被災した人々の落ち着きと、我慢強さと、助け合いの精神には頭の下がる思いです。同じ日本人として誇りに感じます。戦後の荒廃から見事に復興を遂げた経験、神戸・淡路大震災の危難を克服した経験からいっても、また、今回の被災を支援しようとする全国民的な動きからいっても、われわれは必ずやこの危機を乗り越えることでしょう。
わが大学でも逸早く学生の中に支援の動きが見られ、学友会を中心に義捐金の募金活動も始まっています。学生諸君の中から自主的に、ただちに声が上がったことを、私は学長として大変嬉しく思います。本日卒業する諸君もまた、この事態を他人事と思わず、自らの事として捉えていると信じます。いま抱いているその気持ちを、何事に際しても、どうかいつまでも失わないでください。

以上が、本日の卒業式を迎えるに当たって私が抱いた特別の思いです。しかし、特に今年の卒業生諸君に対する特別の思いも、別にあります。

私は6年前に本学の学長に就任しましたが、私の口癖として諸君が耳にたこができるほど聞かされている「勇気」という言葉を初めて口にしたのは、諸君が入学した2007年の入学式の式辞の中だったのです。昨日、過去の入学式の式辞原稿を読み返してみて、このことに気づきました。その式辞の最後で、「合言葉は勇気」と、私は諸君に呼びかけています。

わが大学の教育目標を「語学力と人間力」として、明瞭な旗印として打ち出したのも、実はそのときなのです。人間力とはまず第一に、「自ら考え、問題を発見し、解決の道を見出す力」のことですが、第二に、最も大切なことは、「生き方も、考え方も、感じ方も異なる他人と、本物の対話を交わす力、そしてその対話を通じて互いに理解し合い協力し合って、共通の目標を立て、これを実現する力」です。相手の言葉に真摯に耳を傾け、同時に自分の考えをしっかり相手に伝え、共に協力して何事かを成し遂げる、これが人間力です。外国語と格闘し、異文化と格闘するのもまた、まず何よりもこの人間力を鍛えるためにほかなりません。

しかし人間力を鍛えるためには、勇気が必要です。諸君の誰もが子どものときには持っていた勇気です。私は当時、入学式の折には、勇気の例としてこう言っています。間違った外国語で話す勇気、質問する勇気、聞かれたことを知らない場合に知りません、分りませんと言う勇気、こんにちは、ありがとうと、挨拶や感謝の気持ちを言葉で表わす勇気、見知らぬ世界や見知らぬ人々の中に飛び込んでゆく勇気、老人や小さな子どもなど弱者に対して手を差し伸べる勇気、そして何よりも自分の考えを粘り強く説明し、同時に、人の言葉に素直に耳を傾ける勇気(人の話をちゃんと聞くためにも勇気が要るのです)。――このような勇気を持てば、自分の中に潜んでいる、自分では気づかずにいた可能性が芽を吹き、未知の新しい世界が開けます。勇気は人間力を鍛える最も根源的な力です。

今年卒業する諸君の学年は、この人間力とそれを支える勇気とを実によく理解し、少なくとも学生生活においては見事に実践してみせた学年だと思います。何事をやるにも、コースや専修語学の枠を越えて、また日本人学生と留学生との区別なく、互いに協力し合い、いい意味で仲間意識を持ち、何事にも本当に羨ましくなるほど一致結束して取り組んだ学年でした。そういう光景に実にしばしば接することができました。これこそ私の望んでいる姿だったのです。
いま、日本の社会の現状は、経済的なことも含めて、必ずしも諸君にとって恵まれたものではありません。就職難の中で、いまだに就職活動を続けている学生がいることもよく承知しています。しかしどんな困難な道が待ち構えているにせよ、どうか諸君が学生時代に培った勇気と人間力を忘れずに、いかなる場合もへこたれず、あきらめず、逃げずに、これからの人生を力強く生き抜いてください。

最後に、留学生の諸君に申し上げます。諸君は4年間、あるいは2年間、日本語を学び、日本の社会や文化について学び、また長崎という異国の地で日本人の中に飛び込んで生活してきましたが、留学の成果はありましたか。これから故国に帰るにせよ、日本で活躍するにせよ、諸君が長崎の地で、長崎外国語大学で学んだこと、経験したことが、諸君の将来に生かされることを心より願っています。そしてどうか、今後どのような道に進むにせよ、中国、台湾、韓国と日本との交流の架け橋となられるよう願ってやみません。

私はご承知のように6年間の学長任期を終え、この3月末日をもって諸君とともに大学を去ります。諸君は私が長崎外国語大学・長崎外国語短期大学の学長として世に送り出す最後の学生です。私は諸君のような学生たちと接しえたことを誇りに思っています。ありがとう。

互いにこれからの人生を元気に頑張りましょう。私の余生は僅かですが、諸君の前には多くの可能性を秘めた洋々たる前途が広がっています。勇気をもって自らの道を切り開いてください。

「合言葉は勇気」、これを忘れずに。
 
卒業おめでとう。