劇団の新人井野良吉はチャンスを掴んだ。映画“春雪”に出演した。試写会では自分のアップの場面が二カ所あった。「はっ」としたが、彼は安堵のため息ももらした。映画の批評も、監督の評判も良かった。運が向いてくるのを感じた。次の映画“赤い森林”の制作が始まる。井野は幸運と破壊に近づいているようだった。
八年前から石岡貞三郎という男の素行調査を井野は始めていた。九年前、井野はミヤ子と山陰線の列車の中にいた。その姿を石岡に見られていたのだ。ミヤ子は殺された。石岡は映画の中の『顔』を見て、映画館を飛び出すのだった。
『顔』は日記風に書かれている。岡田茉莉子が出演して、映画も昭和32年に作られた。が、原作とかなり変わっています。冒頭の列車の中の岡田茉莉子の『顔』、なかなかの名演技です