『黒地の絵』は清張の初期の作品であるが、この作品についての評価は二つに分かれる。まず、新潮文庫版の解説で平野謙は、「黒地の絵」に注目はするものの、つまり、著者の作品に対する切り込み方は評価するものの、題材それ自体の衝撃的な重さを、まだ十全に処理していない憾みがあると評する。
一方、全集の解説で中野好夫は「黒人兵暴動という大きな前景と、前野留吉一家の悲劇とが、まことに一分の隙もなく緊密に構成されている」と高い評価を与えている。同じく高い評価を与えている者に浅井清がいる。彼は『国文学 解釈と鑑賞』で「芥川賞受賞後の松本清張の転機となり、その文学の広がりと深まりとを示す」作品であると評する。
評価は分かれているものの、この作品が『或る「小倉日記」伝』から一歩踏み出し、その後の清張の文体を確立した作品であることは間違いがないと考える。『黒地の絵』に描かれた「主人公の弱者の立場」、「主人公の社会の状況への抵抗」は、『或る「小倉日記」伝』の田上耕作と同じであり、その傾向は清張の初期の短編、「菊枕」「断碑」「啾々吟」などにも顕著に現れている。そして、それは、その後の清張作品に一貫して流れる重いテーマである。
平野謙は『黒地の絵』をくりかえし読む気にならないとは言うものの、新潮文庫版『黒地の絵』に収められた「真贋の森」「装飾評伝」「黒地の絵」について、清張がいかなる現実に着目し、それをどのように文学的に処理したかの一点において、一貫するものがあることを認めている。それは、清張の初期作品に、その後の清張の職業作家としての展開を予感させるものを読み取ったからに相違ない。
作家佐木隆三はこの作品は松本清張の最高傑作と評している。