『絢爛たる流離』は昭和38年の1月から12月迄『婦人公論』に連載された。3カラットのダイヤモンドの数奇な運命を描いているが、その12話の第3話が「百済の草」、第4話が「走路」である。ダイヤの持ち主は次々と変わるのだが、この3話と4話は井原寿子がその持ち主である。
井原寿子の夫伊原雄一は、妻を伴い、朝鮮の鈴井物産鉱業所に赴任する。井原雄一は将来を嘱望された社員であった。井原雄一の不安は、召集されることであった。彼の不安は的中する。井原雄一は歩兵の教育が終了すると、衛生兵となった。最初は京城にいたが、しばらくすると鈴井物産鉱業所のある所に戻ったが、彼は自由に外出することができない。妻の住んでいる家には高級将校が間借りをしていた。彼の転任先には、鈴井物産鉱業所の部下が先輩兵として勤務していた。軍隊の中での上下関係、とは言え、職場では逆転する関係。妻に会うために新しい軍服を調達してもらう。また、別の上官中田には特別に外出できるように取り計らってもらう。
高級将校の殺害事件が起こる。高級将校は井原の美しい妻に思いを寄せていた。井原は妻と会うために妻には軍服を着て外出してもらっていた。その将校が殺された晩にも軍服を着た井原の妻の姿が目撃されていた。伊原雄一と上官中田は突然沖縄に転出する。
「走路」は「百済の草」に続く作品であるが、井原寿子をめぐる鞘当を演ずる3名の男が登場する。その3名は日本の敗戦を前に、船で朝鮮から日本に向かって脱出する。途中で一人は海に落ち、もう一人は船上で射殺される。井原寿子と生き残った主計大尉は日本に上陸するのか。船上での射殺の場面で話は終わる。