『尊厳』 多田貞一の復讐(昭和30年)

 主人公は多田貞一という名の男で、警察官の息子である。父親は華族の一人が地方を巡幸する際にオートバイで先導をした。サイドカーに警察署長を乗せ、普段通りなれた道を走るのだが、その日は、道をぎっしりと埋める群集で、いつもとは違った。彼は道を間違ってしまう。大失態を演じた責任を取って自殺した所長の後、彼も自殺する。
 残された子どもが多田貞一である。時は流れ、朝鮮戦争の時代に進駐軍関係の仕事をする。そのあたりは、『黒地の絵』を思い起こす描写である。その仕事で得た金を元に密輸を行い、財を成す。今では一般人になっていた旧華族は生活もうまくゆかず、邸宅を売りにだすしまつとなるが、それを多田貞一が買い取る。父親の自殺の原因となった旧華族には、もはや尊厳など全くなかった。その旧華族が光陰会という新興宗教を起こす。その後ろ盾は多田貞一である。旧華族は以前の尊厳を取り戻す。貞一はその時を待っていた。

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